低体温症

低体温症

2005年におきたパキスタンでの大地震では低体温症でなくなられた方が沢山出ています。明日(15日)には東北地方の気温が氷点下となる予報が出ております。
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一般の人向け <避難場所での低体温症対策>
asahi_shientushin.jpg当学会の情報を元に作成された被災地瓦版(朝日新聞)
屋外に退避して救助を待っている方々、避難所でも十分な暖房がなく寒冷環境にいらっしゃる方へ、低体温症にならないために、以下のような点に注意することをお勧めします。
○なぜ低体温症になるのか?
・ 低体温症は、体の外に奪われる熱と自分で産生する熱のバランスで、奪われる熱が多いときに体温が維持できずに起こります。従って、それほど寒くない環境でも、栄養が足りなかったりすれば起こりますし、特に、お年寄りや小児などでは、起こしやすいので注意が必要です。
○低体温症になりやすい人・なりやすい状態
・お年寄り、小児
・栄養不足や疲労
・水分不足 
・糖尿病、脳梗塞など神経の病気がある人
・怪我をしている人
○低体温症に気づくには?
手足が冷たくなったり、寒くて震えます。
体の中心の温度が35℃まで下がると低体温症ですが、震えは中心の温度が37℃から始まり、体に警告サインを出します。ここでのんびりしていると、本当に低体温症になります。震えがあるのは、熱を上げるエネルギーが残っている証拠です。ここで改善するのが一番安全で、早道です。
○低体温症の対応が遅れるわけは?
初期の低体温症は、心臓発作のように緊急性が高くないので、もう少し・・と言ううちに、気づくと悪化してしまいます。
○体温測定は?
一般の体温計で体温を測っても低体温症の診断にはなりません。
低体温症の体温は個人差がありますので、測定する必要はかならずしもありません。
とにかく、震えがあるか、意識がしっかりしているか、を確認して下さい。
○震えが始まったら何をすればいいのか?
1。隔離  冷たいものからの接触をさけます。地面に敷物をしたり、風を除けたり、濡れた衣服は脱いで下さい。着替えが無くても、濡れたものは脱いで、毛布などにくるまって下さい。
2。カロリー補給  何よりカロリーで、体温を上げるエネルギーを補給することが大切です。
3。水分補給  体温が下がると利尿作用が働いたり、体内の水分バランスが変化し、脱水になります。温かくなくてもいいですので、水分をとります。温かければ、さらに理想ですが、まずは水分補給です。
4。保温・加温  体温を奪われないために、なるべく厚着をして下さい。顔面・頚部・頭部からも熱の放散が大きいので、帽子やマフラーなどで保温して下さい。毛布などにくるまる場合は、一人でくるまるより2-3人でくるまった方が暖かいです。特に、老人や小児など弱い人には、元気な人が寄り添って一緒に包まれると保温効果があります。
屋外場合は、これ以上濡れないように、湿気から隔離できる衣服やビニール素材などがあれば、くるまって下さい。震えがある段階では、どんな温め方をしても大丈夫です。
○悪化のサインは?
震えがなくても低体温症になっていることもあります。
見当識障害(つじつまの合わないことを言う)、ふらつくなども、重症な低体温症の症状です。また、震えていた人が暖まらないまま震えがなくなって来るのは重症になっている証拠です。
○震えがなくなったり、意識がもうろうとしてきたら?
震えが止まってしまった低体温症は、自分での回復は難しいです。急に悪化する可能性もあるので、できれば、至急病院に搬送しましょう。ただ、避難所によっては搬送が困難だったり、危険を伴うことも考えられます。その時は無理をせずに、以下のような対応をして下さい。
これ以上体温が低下しないよう、今まで以上にしっかり加温をしてください。
またコマメに、意識が悪化していないか、呼吸をしているか、確認して下さい。
また、この状態では、丁寧に扱い、可能であれば横に寝かせて下さい。
さすったり、乱暴に扱うと、心臓が止まるような不整脈を起こすことがありますので、注意が必要です。
この状態では、
1。むせないようであれば、カロリーのある飲物をのませてください(低血糖や脱水を伴っていることが多いです)
2。ペットボトルなどに、人肌程度のお湯を入れて湯たんぽを作り、脇の下・股の付け根・首の回りに当てる(42℃を超えた湯たんぽは、長時間当てるとやけどをするので注意)

以下の場合は、病院への搬送の必要性がさらに高くなります。
・ 加温を開始しても意識が悪くなる場合や呼吸状態が悪化する場合
・ 半日以上加温しても変化のない場合
・ 怪我をしている場合、糖尿病や脳梗塞がある場合、子供、高齢者は体温の回復が困難なことがありますので、病院搬送の判断を早める必要もでてきます。

暖房器具がない場合は、なるべく小さな空間に多くの方が入ると人の体温で空間内は暖められます。
hahoku_hypothermia.pdf当学会の情報を元に作成された河北新報の記事
例①避難所には運動会などで使う白い大型テントなどがあるはずです。それらテントの三角上部だけを体育館などの室内四隅に設置する。床には支援物資などで使われた段ボールなどを多く敷き詰め、床からの冷気を防ぐ。出入り口用の切り目を両サイドに入れる。その中になるべく多くの人が入る。救援物資でキャンプ用テントが届いている場合でも、室内で使われていないようなので、室内にテントを建てる事も有効です。テントは屋外で使うものという固定概念をなくしましょう。


例②救援物資が送られてきたら使用済みダンボールが大量に出てくると思いますので、ダンボールハウスを作るのも一つの手段です。

避難所の多くは、アリーナや体育館などなので、そのままでは熱がどんどん逃げていきます。テントやダンボールを使った小さい空間は、中に入った人の熱で暖められ逃げにくいので、中に体力の低いお年寄りや子供を多く移動させます。全員がすると混乱も生じると思うので、体力弱者から入れてあげると良いです。ただし、その中で暖房器具などを使うと一酸化炭素中毒を起こす恐れもあるので、注意が必要です。

感染症

感染症

登山医学会理事増山茂医師、堀井昌子医師からの提言

3月11日に東北地方を中心に発生した巨大地震は未曽有の災害となった。震災後に発生する可能性のある感染症について簡単に説明する。
地震や津波の直後は、外傷が問題となる。倒壊流出した家屋や車両などによる。この傷口から侵入する感染症にまずは注意が必要である。こうした感染症は傷をこまめに消毒すること、抗菌薬で対処することで治療可能なものが多いが、「汚れた水」しか得られないことも多いはずだ。完全な消毒は難しいという前提で対処しよう。

「汚れた水」が明らかに生活排水を含んでいると思われるときは煮沸の手段がない限り飲まない。緊急避難的に化学的な消毒の方法があり、手法としては、水1リットルに塩素剤(次亜塩素酸ナトリウム6%の製品。「ピューラックス」)を3滴入れ、よくかきまぜる。30分ほど放置してから使う。消毒した水はその旨表示して飲料のみに使用する。ノロウイルスなどの感染性胃腸炎に対する注意も大切です。

また、心配すべきは破傷風でありワクチンによる予防を要する。大きな怪我を負った被災者は、救出後早めに医療機関で処置を受けていただきたい。

震災後1週間程度してから発生するのが、インフルエンザや感冒などの呼吸器感染症である。インフルエンザについては3月になり流行が終息しつつあるが、避難所のように集団生活する場所では新たな流行が発生する。とくに被災者は栄養状態の悪化などで抵抗力が低下していることが多く、呼吸器感染症にかかりやすい状態になっている。避難所では手洗いやウガイを励行するとともに、マスクの着
用も必要に応じて実施すべきである。

この時期に発生するもう一つの感染症として経口感染症がある。日本のように衛生環境が整備された国であっても、震災後には飲料水や食品が汚染されるなどして、食中毒や下痢症が多くなる。とくにこの時期はノロウイルスが流行しやすい季節であり、水や食品は加熱したものを摂取した方がいいだろう。避難所で飲食物を提供する自治体なども、この点には注意していただきたい。

震災後数カ月を経過した時点で流行する感染症として、発展途上国では蚊に媒介されるマラリアやデング熱がある。これは、水溜りで蚊が繁殖することに由来する。ただし、日本国内では元々患者が少ないため、こうした昆虫媒介の感染症が震災後に増加する可能性は低いと考える。なお、ゴミ処理の停滞でネズミの数が増えると、それに媒介されるレプトスピラ症やハンタウイルス感染症などが発生する可能性もある。いずれにしても、震災後は衛生環境の整備に力を注ぐとともに、年単位にわたりに感染症の発生を監視する必要があるだろう。

避難所での水について

避難所での水について

「水」の質は用途に応じて4段階に区分します。①〜に従い水の汚染度が上がってきます。
①飲むための水→原則としてペットボトル入りの水を飲んでください。
公共水道で、きちんと処理(施設が運転中)されていることが確認されている水道水なら良いです。しかし今回の地震で地割れ等が生じ、水源付近での汚染も考えられますので、これまで井戸を使っていた場合の水は控えたほうが良いでしょう。

②からだの洗浄のための水→井戸水でも石鹸を使用すれば大丈夫です。また、見た目で澄んでいれば油臭いなどの異臭がしない限り使用に差し支えありません。

③汚れを落とすための水→濁った水でも大丈夫です。ペットボトルを輪切りにし、口を下にして中に布・和紙・コーヒーフィルターなどを詰めて漏斗にすれば、かなり綺麗な水を造ることができます。しかしこうして作った水は、たとえ透き通っていても飲むことはできません。

④廃棄のための水(水洗トイレなど)→汚れた水でも構いません。②や③で使った水を溜めておいて使うことができます。

②の水を①にする方法
煮沸させれば飲料水としては大丈夫ですが、熱源確保の問題があります。
公共施設に避難をし、そこに厨房があれば大抵は塩素剤「ピューラックス」が置いてあるはずです。2リットルの水に対して塩素剤5〜6滴たらした後に攪拌し、30分ほど置けば①の水質と同等にすることができます。空いたペットボトルの容器が便利です。ただし、②の水を塩素処理した水であることは、銘記する必要があります。商品ラベルを剥がし、自分のものとして区別(放置しない)しておくべきです。塩素の臭い(プールの臭い)がするからといって、台所用の塩素剤は使ってはいけません。台所用の塩素剤には界面活性剤が入っています。

高齢者・幼児こそ積極的に水分を小まめにとるように、心がける必要があります。高齢者は避難所のような集団生活では、どうしてもトイレを我慢するため摂取水分が少なくなります。寒い中で水を飲むことは辛いでしょうが、深部血栓症を予防するためにも、もう1リットル余計に飲むように心がけてください。

蛇口をひねれば「水」ではなく「飲料水」が当たり前のように出てくる日常生活を送っている私たちにとって、「水」と「飲料水」を非常時に区別することは大変ですが、基本的事項としてご参考まで。

エコノミークラス症候群

エコノミークラス症候群

日本登山医学会会員
香川大学医学部附属病院手術部教授
臼杵尚志

エコノミークラス症候群について

 新潟県中越の際に、非難されていた方の幾人かが、エコノミークラス症候群と呼ばれる静脈血栓塞栓症からの肺塞栓症でなくなられました。避難所や車中等の身動きの出来にくい場所で休まれている方々に注意していただきたい点について、以下に述べます。

どうして起こるのか。

 通常の生活の中では、歩行したり脚を動かしたりする際に、脚の筋肉が使われ、静脈中の血液が心臓へ返るのを手伝っています。その脚の動きが少ない状況や、窮屈な状況で長時間脚を屈曲させている場合には静脈の流れが滞り、そこで血液が固まり易くなります。この固まった血液は、ここで居るだけでは大事にはなりませんが、次に歩行等を開始した際に、脚から心臓へと飛んで行き、心臓を通り越して、肺の動脈につまります。これが肺塞栓症で、大きなものが太い血管につまった場合には、命を奪われることもあります。

エコノミークラス症候群になり易い方は以下のような方々です。

・外傷のある方
・長期間臥床している方
・下半身に麻痺のある方
・癌の治療を受けられていた方
・これまでに血栓症を発症した事のある方
・ご高齢の方
・妊娠されている方
・分娩後の方
・経口避妊薬、ホルモン補充療法を受けられていた方
・乳癌等に対する抗ホルモン療法を受けていた方
・造血刺激剤を使用していた方
・炎症性腸疾患・急性の内科疾患を持つ方
・肥満の方
・血縁者に血栓症の病歴を持つ方 など

予防のためにしていただきたいこと

・脚・腰の周りが窮屈な服装は避ける(着替えは難しいでしょうが、ベルト等を強くしすぎない等を心がけて下さい)。
・水分を十分に摂る(被災された中で難しい事もあるでしょうが、極力摂って下さい)。
・時々脚を自分の筋肉を使って動かす(起きて歩ければ言う事はありませんが、少なくとも膝から下を時々動かせてください)。
 といったことが、手近にできる対策です。

さらに注意していただきたい事
 従来、血栓予防の薬剤を使用されていて、震災後、継続した薬の飲用ができなくなっている方は、特にご注意下さい。
 お年寄り等で、自分で動き難い方々は、近くの方が、時々体の向きを変えてあげられれば少しは可能性を減らせると思います。

震災や津波からせっかく助かった命です。新たな病気が発症されませんように、どうぞご注意いただきたく思います。